そのT そのU そのV そのW  そのX

 そのT  「亀魂」

我が家には亀が二匹いる。いわゆる幼少の頃は「銭亀」と呼ばれる「くさ亀」である。十七歳で人間なら高校三年生になる歳だ。
 そこらの馬鹿犬より賢いし、飼いやすいし、匂いもない。下(しも)の世話もいらない。
 信じられないだろうが、「伏せ」も「お回り」も「チンチン」もできる。
おまけに自分の住いになっている囲いの扉も開けて出てくる。そして私のところにやってきて遊びを所望したりKISSをしまくる。

 春休みに福岡の孫たちが遊びに来た。双子の男の子(小三)だから元気がいい。親の言うこともきかない。
 懲らしめのため、私がプロレスよろしく一人を畳の上にねじ伏せていたら、なんと亀のメイ(名前)がトコトコと素早くやってきて、その子のほっぺたに噛みついた。
驚いたのは私である。今までそんなことを一度としてしたことがなかったからである。

泣きじゃくる、その子の赤くはれたほっぺたに薬を塗りながら考えた。
 私と孫が遊んでいたから嫉妬心から噛みついたのか、私の応援だったのか、それとも、自分の縄張りの誇示だったのか。
 その子を自分より下の位にみての狼藉であったことには間違いないが。
 メイは語らずいまだに不明である。
 たかが亀といっても馬鹿にできない。ちゃんと魂を持っているのである。

 

 

 そのU 「亀の本能・知能」

    ほかの亀のことはあまり知らないが、ことメイとメリーのことはよく分る。メリーはいわゆる、なれている亀なんだろうと思う。餌も人間の手で貰える。外に出していてもそこらじゅうを歩き回る。人間がそばにいようが一向に構わない。

 で、考えるにメイはなんだろう。なれすぎという表現ですむのだろうか。本能以外の知能があると考えたこともあった。学者じゃないので堪でしか分らない。

 今は家内と二人住まいだが、子供たちがいる頃、室内でメイがいる時にはみんなメイと目を合わさないようにしていた。目が合うと必ずノコノコとやってきて足の指をつつく、膝に乗り転んで落ちては這い上がる、と同じことを繰り返すものだから、テレビや食事どころではなくなる。子供なんかは「はい」とわざと私にメイを押し付けるのである。これが誰も相手しなくなると家族の一人一人の反応を見るために回ってくる。それでも無視を決め込むと諦めてのそのそと室外へ出ようとする。誰かが、かわいそうになり「メイ」と呼ぶとぴたりと止まり首を持ち上げ、呼んだその人を目がけてまっしぐらとなる。

 時として、忘れられたメイがいなくなって大騒ぎになって捜すことがあった。何てことはない。私が脱ぎ捨てたパジャマの中ですやすやおやすみだったこともしばしば。 なんでかしら私の服が大好きでよく私の服の中で眠る。子供と同じで安心していられるのだろうと思う。                                      

 今はベッドだがこちらに引っ越す前は畳の上に布団一式を敷いて寝ていた。私が布団に寝ると必ずコタツから出てきて布団にもぐり込み場所も必ず私の右脇の下で寝るのである。今日はコタツから出てこないな、と思っていると朝方起きたらしっかり定位置で寝ていた。

 

   そのV 「亀も溺れる」

  「猿も木から落ちる」という諺がある。似たものに「河童の川流れ」も同類だ。我が家の亀のメイは水に溺れるからまた不思議なものである。

 庭に掘った穴に水槽(プラスチックのコンテナ)を埋め込み囲いを作り、広場に甲羅干しができるように丸い置石などをおいている。                          ある春うららかな日、水槽の縁に置いてある石の上で気持ちよさそうに足をのびのびしてうたた寝していたメイを私がうっかり足にかけ水槽に落としてしまった。メイは仰向けに水の中に落ちてびっくりしたのだろう。その慌てぶりは人間が水に溺れて手で水をたたくのと同じだった。仰向けになったまま両足をばたつかせているのだ。

 しばらくばたついた後、急いで水槽の縁につかまり、人間で言うと「ぜえぜえ」という感じである。メイには悪いがその様子があまりにも面白く笑い転げた私であった。

 それから、同じように寝ぼけているメイをわざと水槽に落とすと同じような結果になることが分かった。それからはそんな悪戯はしていない。「ごめんねメイ」

 

 そのW 「おしっこちびる」

 人も極限の緊張事態に陥るといわゆる「おしっこをちびる」ということがある。経験したことがある人も少なからず。子供の頃は特に多そうだ。

 ちびらずとも、会議などで発表する機会があって、何度もトイレに駆け込むということはよくある。

 犬、猫などのペットも緊張すると何らかの行動を起こす。                  メイを知人の家に見せに連れて行った。車の中では私の懐で落ち着いていたものの知人の家に上がりテーブルの上に乗せたとたんテーブルの上をせわしく歩き回りその歩いた後に水が線を描いている。                                   「なんだこりゃ」と思うのと「あっ、やってしまった」と思うのが同時だった。         メイの甲羅をつかみ持ち上げるとなんと「シャー」と知人におしっこをかけたではないか。まさに、水戸黄門の「この紋所が目に入らぬか」状態でおしっこを飛ばしたわけである。

ティシュを貰い線をたどるように拭き取る。知人の膝にかかったおしっこは本人に拭いてもらった。メイを怒っても仕方がない。おかげさまで亀のおしっこは臭わないので、その場は笑いですんだ。

 我が家ではめったにそそうはしないメイであるが、やはり知らない所に連れて行くと緊張してパニックッてしまいそそうをしたわけである。

 ところがである。メイも17歳になってくると人間の世界では高齢らしい。それを象徴するように、時々おもらしをしている時がある。

 亀も人もぜんぜん違わない。

 

そのX 「反省」 平成15年 4月10日

 そのVで「亀も溺れる」と書いたが本当に溺れてしまいメイを死なすところであった。

 昨夜お上がり(外から家の中にあげるときを我が家ではそう表現している)していたメイを朝方外の水槽に戻して餌をやり、午後二時ごろなにげなく様子を見に行ったところ水槽の下のほうで首を伸ばし両手を広げて立っているのをみたとき異変に気が付いた。いつもならすぐに私の方に泳いでくるのだがじっとして動かなかった。

 しまったと思って水槽からあげると首を精一杯伸ばして目がうつろになっている。のど元あたりが膨らんでいた。最初は何かを飲み込んでのどに詰まらせたと思ったが膨らんだのど元を指で抑えるとそういう異物を感じない指を離すとまた膨らむ、両手両足は伸びきるほど伸ばして首も伸ばす限り伸ばそうとする。メイの鼻を私の耳のところに当てて見ると息もしていないのである。これはと思いメイの鼻を口にくわえて息を吹き込んでメイの甲羅の背中を手で叩いた。数回繰り返したらメイの鼻がピーと音を立てて息が出たのが分かった。しかしその息の間隔が長いので背中を軽く叩いていると息の間隔が少しずつ短くなってきた。

 やっと正常な息の仕方になってきたとたん現金なもので伸ばしていた両手両足で握っていた私の両手を振り払おうとつめをかけてきた。こちらの気持ちも知らないで。

鼻をいつものように私に押し付けてくる。まずは安心である。。

 時間としてはものの5,6分だった。最悪のことも何回として考えた。もしメイがいなくなった後の淋しさとか。我が家に来ての17年間が思い起こされた。別れっていうものがこんなにあっけなく来るものだろうかと。

 それにしてもその原因が分からない。ず〜と飼育環境は変っていないから、それこそなんでだろうである。それと発見が早くてよかった。これが遅かったら何をしても動かないメイと対面することになっただろう。これも私とメイの不思議な縁というものかもしれない。

 やはり17歳という年齢からきているのであろうか。今後はそれなりの環境を考えてやらねばと反省しきりである。

                             続く

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